「極大射程」-狙撃手ボブのタフさに酔う エンターテイメント小説の傑作

「極大射程」-狙撃手ボブのタフさに酔う エンターテイメント小説の傑作

ベトナム戦争にてスナイパーとして卓越した能力を発揮したボブ・リー・スワガーは、相棒の死と自身の負傷によって退役し、山奥にて隠遁生活を送っていた。

そこにアキュテック・インダストリーという会社の人間たちが訪ねてくる。その会社で作られた「アキュテック・スナイパー・グレード」という精巧に作られた弾薬に興味を持ったボブは、アキュテックの弾薬の試射に付き合うこととなる。

そのころ、FBIのニック・メンフィスのもとに情報屋のエドワルドから連絡が入っていた。ニックはエドワルドのいるモーテルを訪ねるがそこは血の海になっており、エドワルドの惨殺死体が転がっていた。

情報屋のダイイング・メッセージ、精巧な弾薬、そして裏で動くラムダインと呼ばれる謎の組織。多くの謎と弾丸が錯綜する、究極のアクションミステリー小説!

作品評価=★★★(最大★三つ)



震えるほど面白い極上のエンターテイメント小説

映画でもゲームでも何でも良いのですが、何かの作品に触れていると、私は稀に身体が震えることがあります。原因はよくわかりませんが、何とも言えない高揚感がそうさせているのかもしれません。

ただ、本を読んで、この独特な震えの現象が起きたことはありませんでした、頭では非常に面白いと思っていてもです。この、本を読むまでは……

というわけで、今回紹介するのはスティーブン・ハンター先生の「極大射程」です。

ボブ・リー・スワガー、またの名をボブ・ザ・ネイラー(名手ボブ)という凄腕スナイパーが陰謀に巻き込まれ、追われる身となりながらも兵士としての尋常ならざる能力を活用し、自分を利用したものたちを逆に追い詰めていくという痛快な物語です。

実は、私はこの映画版「ザ・シューター 極大射程」を公開当時、鑑賞していまして、人気小説の映画化であることは知っていました。ただ、映画版を見た感想としましては、「それなりに面白いアクション映画だけど……こんなものかな」といった感じでした。そんなもので、原作を読もうという気には全くなりませんでしたね。

話が少し変わりますが、現在、小説原作とは限らず、何かしらの作品に基づいて作られた作品は星の数ほどあります。その作品を原作と比べるというのはあまり私は好みません。原作には原作の、基にして作られた作品にはその作品の良さがあると思うからです。

今回「極大射程」を読んで、その思いはますます強くなりました。そして、ひとつ心に決めたのは「どんなにつまらない作品でも、気になったらその原作には触れておこう」ということです。今回のようなことは無いようにしたいですから。

では、どの点が面白いのか、書いていきます。

ボブ・リー・スワガーという最高に魅力的な主人公

まずは、この魅力的な主人公に触れざるを得ないでしょう。

なにせ、2020年現在、”スワガー・サーガ”と呼ばれるこの作品のシリーズはボブ・リー・スワガーの物語だけでも十作品以上あります。人気の高さが伺えますね。

ボブの魅力は狙撃の「プロ」であり「タフ」、そして「名誉」を重んじる、まさにアメリカの英雄の象徴のようなところでしょう。さらに、ボブの銃への執念は、日本に住む私にはわからない銃社会アメリカの一面を表しています。

あまり、「プロ」とか「タフ」を大きくしてしまうと、超人的になってしまい荒唐無稽な人物になってしまいますが、そこはスティーブン・ハンター先生の知識と精密な描写力によって、「実在するかもしれないヒーロー」にとどまっています(ただ、こういうヒーローってシリーズが長くなると超人化しちゃうんだよね……)。

ボブは狙撃のプロですから、多くの狙撃に関する解説であったり描写が出てきます。これが、凄い。

物語中で大統領の狙撃を阻止しようと、敵のスナイパーがどこから狙撃するかを予測するため現地偵察を行うシーンがあるのですが、地形や射角、湿度にいたるまで、弾道に影響を及ぼすもの全てを調べ上げるこの徹底さは非常にかっこいいです。

銃器に関するこだわりも描写されていますが、銃に疎い私にとっては何が何やら……、それでもボブが熟練したプロであることは非常に伝わってきます。

ただ、戦争帰りのボブの狂気が垣間見れたり、以前の相棒であるダニーの妻との関係だったり、プロとして完ぺきではないところもまた魅力のひとつだったりします。

第二の主人公、ニック・メンフィス

ボブの印象が強すぎるので陰に隠れがちなFBI捜査官のニック・メンフィスですが、今作の第二の、いや、第一の主人公と言っても過言ではない登場人物です。

人当たりが良く、局内の誰からも好かれるニックですが、過去にはスナイパーをしており、狙撃のミスによって人質の女性を半身不随にさせてしまった苦い過去があり、ニックはその女性と結婚し、幸せは生活を送りますが、その女性は亡くなってしまいます。ニックの物語は妻を亡くすところから始まります。

序盤はFBI捜査官としての責務を果たしていく人間ですが、陰謀に巻き込まれFBIに追われることとなってしまったボブと出会うことでニックに大きな変化が訪れるのです。

陰謀の核心に近づきすぎ、処刑されそうになったニックをボブが助けたことでこの二人は相棒になります。戦闘のプロであるボブと、捜査のプロであるニック、この組み合わせは心を熱くさせますね。

アクションとミステリーの奇跡的融合

上の写真では帯を外していますが、帯には「このミステリーがすごい! 00年版 第1位」と記されています。

映画版は完全にアクション寄りになっていましたが、原作はミステリー寄りです。

誰が、何故、この陰謀を仕組んだのか?

ボブでも難しい狙撃をこなした謎のスナイパーの正体は?

ニックの見つけたエルサルバドル人の遺体の傍らにあったメッセージの意味は?

謎が謎を呼ぶ展開で、徐々にそれらの謎が解かれていく快感はまさにミステリーのものです。

 

では、アクションはどうか? これまた、凄いです。

ボブ一人対百二十人の戦闘というランボー顔負けのアクションシーンが用意されています。そこの戦闘描写は素晴らしいの一言、たまりませんね。

非常に読みやすい翻訳、シネマティックで脳内に映像が浮かびやすい作品なので映画好きにおすすめ。

この小説は非常に映画的です。説明しろと言われると困りますが、非常に描写を脳内で再現しやすいんですよね。ニックを処刑しようとする悪漢二人を狙撃してボブが登場するシーンがあるのですが、「あ、この場面絶対スローモーションでかっこいい音楽流れながらボブが登場するな」と考えてしまうのです。

アクションあり、ミステリーあり、そしてラブロマンスありのザ・エンターテイメント作品、是非読んでみてください!

では、また!