「燃えよ剣」-稀代の喧嘩師、新選組副長・土方歳三の人生を描き出す!
- 2020.08.06
- 読書感想文

「なあに、いずれは武士になるのさ」
武州多摩の百姓であった歳三は幕末の動乱に身を投じていく。
新選組の「鬼の副長」と呼ばれた人物ははどのような漢だったのか。友情、裏切り、そして、愛をとおして、一人の人間としての土方歳三を描き出す傑作小説。
土方歳三の物語
「新選組」を題材にした作品をこの頃あまり見ないような気がしますね。少し前になると「壬生義士伝」のドラマ、映画だったり、大河ドラマでも「新選組!」がありました。ゲームでは「薄桜鬼シリーズ」があります。
幕末という激動の時代を生きた剣に覚えある志士の集団、物語の題材にはうってつけと言っていいでしょう。
今回、紹介する司馬遼太郎先生の作品「燃えよ剣」では新選組で「鬼の副長」と言われた土方歳三の生涯が描かれています。
ここで勘違いしないでいただきたいのは土方歳三という一人の漢の物語であるということです。つまり、新選組メインの話ではないということですね。
どうも私は大河ドラマ「新選組!」を見ていた影響かもしれませんが、新選組での重大事案がサクサクと過ぎ去っていく今作を見て、すこし唖然としてしまいました。「こんなにあっさりしてていいの!?」という感じで。
もし、読む機会があれば、読む前に今作は歳三の目線で見た、歳三の物語ということを覚えていただきたいと思います。
喧嘩師・歳三
今作の歳三は不愛想ながらも戦いになると恐ろしく強い、「喧嘩師」としての一面を多く描いています。
新選組を組織してからは鉄の掟「局中法度」を作り、逆らうものは皆死罪というまさに「鬼の副長」と呼ばれる所以を出していきます。各所から集まった浪士をまとめるにはこれほどの規律は必要だったのでしょうね。
ただ、上にも書いたように、新選組メインの話というわけではなく、喧嘩師・歳三の面を多く描いているので、池田屋事件などの重大事件はことのほかあっさりかかれており、どちらかというと宿敵、七里研之助との闘いや、最後の闘いである北方での戦いが非常に事細かに書かれています。
今作の歳三は人の好き、嫌いが恐ろしくはっきりしているため、関わりあう人間が限られてきます。恋人のお雪とのラブストーリーも非常に感動的ですが、私が好きなのは、なんともとらえようがない男である沖田総司との関係でしょう。
魅力的なキャラクター、沖田総司
多くの作品で剣の達人で美男子という出で立ちで登場する沖田総司ですが、今作でもそれは変わりません。しかし、「燃えよ剣」での沖田総司は歳三の数少ない心を許せる人間として描かれています。
どんなに緊迫した場面でも歳三と沖田の会話場面がでてくるだけで心が和んでしまう、血生臭い作品の中で清涼剤となっているキャラクターです。
物語の後半になってくると結核によってどんどん身体が弱っていく様子が描かれるのですが、それでも爽やかさを無くさない人間像に憧れてしまいますね。
躍動感ある戦闘シーン
これは非常に意外でした。もう50年以上前の作品である「燃えよ剣」ですが、戦闘シーンに至っては現在の小説を遥かに凌駕しています。しかし、よくよく考えてみると時代劇映画は昔のものの方が迫力があったりしますね。小説では尚更。CGなどでは誤魔化しが効かないのが時代劇なのかもしれません。
兎にも角にも戦闘シーンが面白いです。居合の達人にはどうやって勝つのか、敵が多数集まっているところではどう立ち振る舞うのか。後半になると西洋の銃をどう活用するのかなど、読んでいてわくわくさせてくれる要素が満載です。
誰でも読める時代劇エンターテイメント作品
難しい言葉はあまり登場しません。ただ、いつもの時代小説どおり、人物名や役職名などは読みにくいものが結構あります。
まあ、そういうところを飛ばして読んでも非常に面白い作品ですので、アクションあり、友情あり、恋愛ありのエンターテイメント作品、是非読んでみてください。
ところで2020年公開の「燃えよ剣」がコロナの影響で公開延期になってますね。PVを見たところ岡田准一演じる土方歳三の剣術がトリッキーなところが非常に面白く、原作に準じていますね。
早く映画観で観てみたいものです
では、また!
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