「ダーティホワイトボーイズ」-脱獄囚たちと、それを追う一人の警官。700ページあるということを忘れさせる極上エンタメ!
- 2021.02.15
- 読書感想文

マカレスター重犯罪刑務所の囚人であるラマー・パイは己の悪党としての力を使って刑務所に君臨していたが、ある出来事により刑務所にいられなくなってしまう。脱獄を決断したラマーは、いとこのオーデル、そして、自分が庇護しているリチャードと共に刑務所を脱獄し、それに成功する。
ハイウェイパトロールの巡査部長であるバド・ピューティは職務を果たすため相棒のテッドとパトロールを開始するが……
息の詰まるような緊張感、二転三転するストーリー、そして、家族愛。極上エンターテイメント作品、スワガーサーガの外伝!
作品評価=★★★★(最大★五つ)
スワガーサーガ第二弾ながらもスワガーはほぼ出てこない。が、しかし……
以前こちらで紹介したスワガーサーガ、スワガー一族の活躍するシリーズの第二弾がこのスティーブン・ハンター先生の「ダーティホワイトボーイズ」になります。傑作である第一弾「極大射程」の感想はこちらから。
第一弾「極大射程」の魅力と言えば、何といっても主人公、ボブ・リー・スワガーの類まれなる能力でしょう。スナイピングの腕はもちろん、状況判断能力、洞察力に優れるボブのかっこよさはたまりませんでした。
さて、今作「ダーティホワイトボーイズ」ではボブは登場しません。一応、ボブについての表記はありますが、何と、一行のみにとどまっております。これをスワガーサーガと言っても良いのかわかりませんが、一応、世界観が同じということで「外伝」となっているみたいです。
ちなみに、どこでボブの表記がでてくるかというと、脱獄囚ラマーの父と、ボブの父、アールが相打ちになったということが作品上にでてくるときです。この設定が今作に活かされることはありませんでした。もしかしたら、今後のシリーズ作品で重要な意味を持ってくるのかもしれません。
「ボブが登場しないんじゃ、ちょっとキャラクターたちの魅力は半減かな」と、思っていたのですがそれは杞憂でした。
脱獄囚側の登場キャラクター、極悪人で頭の切れる、カリスマ性を持ったラマーが魅力的です。
魅力的な悪というのは最近けっこう流行っているように感じます。代表的なところだとバットマンのジョーカーとか。しかし、このラマーは本当に悪い奴なんです。ジョーカーも悪い奴ではありますがノーラン版ジョーカーのようなスタイリッシュな悪ではラマーはありません。邪魔する奴は問答無用で殺害し、気に入らない奴をねじ伏せる、まさに、極悪非道な人間なのです。
その人間のどこが魅力的なのかといいますと、いとこのオーデルの存在が大きいです。生まれながらにして脳に障害があるオーデルをラマーは心から愛しているのです。その家族愛が同じく脱獄囚のリチャードや協力者のルータへと広がっていき、この四人が本物のファミリーへとなっていこうとする様はどんなにラマーが極悪人でも胸をうたれるものがあります。
対するハイウェイパトロールの警察官バドは優秀な息子たちを持ち、順風満帆な人生を過ごしていますが、実のところ相棒のテッドの妻、ホリイと浮気しているのです。
何も持たないながらもファミリーを作っていこうとするラマーと、何もかも持っているがファミリーを壊してしまおうとするバド、この二人の主人公の対比は面白いですね。
今作にもミステリ要素が登場。「ライオン」とは何か?
前作「極大射程」はミステリ要素大きい割合を占めています。何といっても「このミステリーがすごい!」の2000年度の一位になったぐらいですから。
今作にも一つのミステリ要素が登場します。「ライオン」です。
弱弱しい元美術教師であるリチャードをラマーが連れていくことに決めたのはリチャードの描いたライオンの絵がきっかけでした。
ラマーを追うバドはリチャードの描いたライオンの絵を発見します。ただのライオンの絵に脱獄囚の情報などなさそうなものですが……
この「ライオン」の絵についての真相はあっと驚かされました。
ラマーとバド、勝つのはどちらか
ミステリ要素だけでなく、ガンアクションも豊富な今作。700ページという大作ながら中だるみすることがないのは流石スティーブン・ハンター先生だと思いました。
前作「極大射程」のときもそうでしたが、文体が非常に読みやすいんですよね。訳書独特のストレスが全くないのには驚きです。
面白い作品でした。是非読んでみてください。
それでは、また!
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